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徒然です


by oneho-inway0621
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其七

朝起きた後、キョウは珍しくボーッとしていた。

思い出しているのは昨夜の出来事。
突然助けてくれた青年。
凛々しく、笑顔がとても優しかった。
でも、役人の反応からして相当な家柄の人に違いない。
そう思うと自分が彼と話している事が不相応な気がして、上手く接する事が出来なかった。
どう接するべきかと悩んでいると、黙ったままの青年がこちらの様子を伺っていて…
助けてくれたのに黙ったままなのは失礼だと思い、咄嗟に彼の立場を同情的に言ってしまった。
あぁ…もう!何か上から目線で同情してるような言い方を…私から言われた所でお前に何が分かるんだって話よね……
青年の様子を伺うと、驚いたような不思議に思っているような顔。
…良かった…気分を害してはいないみたい。
名前を聞かれた時も、関心を持たれているようなのは正直嬉しかったが、何となく気が引けた。
それでも、私のことを知ろうとしてくれた彼に自然と名乗っていて……

遠ざけようとしているからといって、相手に対する印象派悪くない…寧ろ良い方だ。
今まで会ってきた人の中でも格段に身分が高いはずなのに、それをひけらかさない彼。
しかし、口に出さずとも上流階級の威厳あるオーラに溢れている。
人の上に立つ者の風格を感じた。

イ……ガク…………。
もう会うはずがない…会ってもどうにもならないのは分かっているが、もう会えないと思うと少し心が曇った。

一人思いに耽っていたキョウに母から声が掛かった。

「キョウ、スジュン君が来てるわよ」

「…え?先生が??」

スジュンはキョウの父と居間で話していた。

「スジュン先生、いらっしゃい。来るなら言ってくれれば良かったのに…」

「あ、おはよう、キョウ。急に思い立ったんだ。朴先生の顔を見に行こうかなって。急にすみません…先生」

「いや、構わんよ。君は息子も同然だ。しかし、私はこれから用事があってね。申し訳ないが、話の続きはまた別の機会に。何ならキョウと話でもするといい」

「はい、朴先生」

スジュンとキョウはいつも話し場所としている縁側に座った。
二人は特に何を話す訳でもなく、ただ座って庭を眺めている。
そんな沈黙も気まずくなく心地良い…そんな二人だった。
キョウの何処か憂いた表情を読み取ったスジュン。

「何かあった?」

昔からスジュンの顔を見ると心が解れて何でも話してしまう。

「…あのね…実は…」

キョウは昨夜の事を全て話した。
今何が自分の心に引っ掛かっているのか、それが分からないと。
スジュンは終始黙って聞いていた。
一見いつも悩みを聞いてくれる時と同じだが、キョウには心なしかスジュンの顔がいつもより無表情な気がした。
全てを話し終えた後、しばらくスジュンは黙っていたが、やがて口を開いた。

「…キョウ。その引っ掛かる気持ちっていうのは……また会いたい……とか?」

「うーん……そうなのかな…。先生には分かる?」

「……どうかな。…僕には分かってしまうかもしれないね……」

そう言って笑うスジュンの顔に一瞬違う色が掠めた。
キョウもスジュン本人もその事には気付かない。

それからはいつも通りに学問の事やスジュンの学堂での話、キョウの日常の話を話して過ごした。


キョウの家からの帰り道。
スジュンの顔は晴れなかった。

僕は…自分がこんなに潔くない性格だと思わなかった。
覚悟は決めていたのに。
あれ程前から…ずっと…覚悟していたのに。
いざその時が来ると、情けない程動揺した。
また会うことにならないで欲しい……なんて思ってしまうなんて。

「…僕は……自分の気持ちを甘く見ていたのかもしれないな…」

スジュンは人知れず呟いた。


イ・ガクは自宅の自室で手巾とにらめっこをしていた。
まるで、ずっと見ていればその持ち主が現れるとでも言うように。
昨日、最後に残ったのは、彼女の名前とこの手巾。
手巾に集中し過ぎて、扉の外に使用人が来たことに気付かなかった。

「…坊っちゃん?」

「…ん?…ウッウン……どうかしたか?」

咳払いで焦りを誤魔化すガク。

「ファヨンお嬢様がお見えです」

「…あぁ、そうか。通してくれ」

そう言うや否や、パッと戸が開いて、ファヨンが入ってきた。
ガクは持っていた手巾を畳んで机の隅に置いた。

「何か用か?」

「いいえ、特に。顔が見たくなったの」

素直なファヨンの言葉に微笑むと立ち上がった。

「そう言えば…母上から君に渡すように言われた物があるんだ。取ってくるから待っててくれ」

「何かしら…待ってるわね」

ガクが部屋を出て行くと、ファヨンは腰を下ろした。
部屋を見回していると、ふと机上の手巾が目に入った。
一瞬、とてつもなく冷たく鋭い風が胸の中を通り抜けた。
何処かで見たことある気がする手巾。
いや、気がするんじゃなくて、確かに以前何処かで見たことがある。そんなに遠くない最近……

無意識に震える手…
その手で手巾にゆっくりと手を伸ばす。
手が手巾に触れる寸前、ガクが部屋に戻って来た。
手を自分の元に戻すファヨン。

ガクが何か話しているが、頭に入ってこない。
手巾の事を聞こうにも、聞けない。
大好きな彼の笑顔を見ているのに、嫌な胸騒ぎがした。

何かの歯車がずれた………そんな気がした。












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# by oneho-inway0621 | 2014-03-08 16:51 | 桔梗の輪廻~序章~

34

目の前に広がる朝食の皿。
メインは…オムライス。

「よしっと…」

準備を整えて、ユチョンの正面に座るパクハ。

「張り切って作り過ぎちゃったかな…」

ぎゅるる………

そんなパクハの言葉を否定する様に鳴るユチョンのお腹。
咳払いをして誤魔化すユチョンにパクハは微笑んだ。

「ふふ……どーぞ、召し上がれ」

「いただきます!!」

ユチョンは手を進めるごとに自分の空腹に気付いた。
口一杯に頬張るユチョン。

「ふはぁい!!」

…一応"うまい!!"と言ったつもりなんだろう。

「良かった…」

パクハはユチョンの反応を喜んで、自分も手を進める。

しばらくして、パクハが問い掛けた。

「ここって…ユチョン君の家よね?誰もいないみたいだけど…一人暮らしなの?」

口満杯のオムライスを水で流し込み、ユチョンは答える。

「ん?あぁ…いや、母さんと暮らしてるけど家を空けがちなんだ。お手伝いさんもいるけど、最近は家事は自分でやれるからって呼んでないんだ。…一人にしては無駄に広いよな、この部屋……」

パクハは、一瞬ユチョンに何処か寂しげな表情を見た。
しかし本当に一瞬の事で、次の瞬間にはさっきと同じようにご飯をかき込むユチョン。

「なるほど…」

気のせいだったのかな?…
納得して、またスプーンを口の運ぼうとしたパクハが動きを止めて、ユチョンを見る。
悪戯っぽい笑みを浮かべるパクハの視線に気づき、顔を上げ首を傾げるユチョン。
眉で"何?"と問い掛ける。

「花」

…花?
何のことかまだ分からないユチョン。

「寝室の窓辺に置いてたやつ…」

寝室の……あ…………!!!!?

「ゴホッ…いや…っ……ウッウン……あ、あれは……その…ゴホッ………」

思い出してむせるユチョン。

「私があげた花、でしょ??」


先程、パクハが寝室を出る時に見つけたユチョンが寝室に置いていた花。
それはあの日のレストラン前でパクハがあげた桔梗だった。
本来、花を愛でる性格ではないが捨てる気にもなれず、きちんと飾っていたのだ。


「前聞いた時は"どこにやったかな…"的なこと言ってたくせに、きちんと飾ってくれてたんじゃない。あぁ、全く…しらばっくれちゃって……」

ニヤニヤしながらユチョンに言うパクハ。
一方、ユチョンは耳の裏まで赤い。

「いや…だから……後で捨てようと思ってて置きっ放し………置きっ放しにしてたんだ!!べ、別に飾ってた訳じゃなくて!!」



34_d0322542_23311111.jpg



勢いで立ち上がるユチョン。
あぁ…あそこに置いてるのすっかり忘れてた…
気付かれる前に何処か別の見つからない場所に置いておけば良かった。

パクハは嬉しかった。
ユチョンの優しさはじんわりと伝わってくる。


パクハは着替えるために自宅までユチョンに車で送ってもらうことにした。
ユチョンは先程のやり取りが原因で少し拗ねている。

「この俺をからかって……すぐ捨ててやる…」

などと、ぶつくさ言っているが、パクハには何のダメージもない。

「じゃあ、また新しいのあげるね」

…なんて事を笑顔で言う始末。


パクハを家に到着した。
坂を登った上にあるアパート。
こざっぱりした感じがパクハらしい。

「じゃっ…」

パクハのアパートにチラッと目を向けると、一言だけ発してそそくさと帰って行った。

走り去る車を見ながら、パクハはふと切ない顔を見せた。

「…優しくしすぎだよ……」

その呟きはユチョンの車のエンジン音にかき消された。












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# by oneho-inway0621 | 2014-02-28 21:02 | 桔梗の輪廻

其六

キョウはその手の伸びてくる方に顔を向けた。
その手の持ち主は端正な顔の青年だった。

いきなり現れた青年に悪態をつく役人。

「お前!!…俺を誰だと思っている!?俺はこの国を動かす役人だぞ!お前みたいな若造に……」

「役人なら…何をしてもいいと?見知らぬ相手にくだを巻いても許されると?……それが役人なんですか?」

「おい、この俺に説教しているのかっ!?」

「そんなつもりはありません。ただ少し失望しただけです。長年、僕が身を尽くして学び、目指してきた役人というものがどんなものかを知って」

青年は怒鳴った訳でも罵声を浴びせた訳でもない。
しかし、言葉に含まれた批判と身にまとう威圧する雰囲気は、その場の誰もが感じた。
見物人達は既に役人を軽蔑の目で見ているのをキョウは気付いた。
青年は一瞬で周囲の人々を味方につけたのだ。

そんな青年の態度がもう我慢ならなかったのか、役人の拳が青年の顔を襲った。

ドカッ!……ドン!!

地面に倒れる青年。騒然となる周囲。
キョウは青年に駆け寄り、役人を睨む。

「何をなさるのです?!非はそちらにあるというのに…!!」

ちょうどそこへ酔った役人の同僚と思われるもう一人の役人が厠から出て来た。
その役人は目の前の状況がいまいち理解出来ずにいたが、酔った役人と酔った役人が危害を与えたと思われ地面に倒れた青年の顔を見て、顔色を変えた。
慌てて酔った役人の傍へ行く。

「おい!何してるんだ!!」

「この若造に教育してやったんだよ~…」

「お前…目を覚ませ!!自分が何をしたか……この方は……」

酔った役人に耳打ちする。
その耳打ちで瞬く間に酔いが冷めたらしく、二人して顔面蒼白になった。

それからは何度も青年に対して頭を下げ謝罪すると、嵐のごとく去って行った。

この人、何者…?……
キョウの訝しげな視線に気付いた青年-イ・ガクは曖昧に微笑んだ。


露店通りをガクが歩いていると、目の前に人集りが出来ていた。
何事かと近づくと…人集りの中心には役人と一人の若い娘…ファヨンと同じくらいの年齢だろう。
その子は役人に静かに抵抗していたが、やがて酔った役人を引き離そうとして強く押し返した。
落としてしまった酒瓶を片付けようとする彼女に必要以上にまだ絡む。
抵抗する彼女の目が見えた…恐怖で少し潤んだ目…………

気付けば、人混みをかき分けて役人の手を抑えていた。
それからはただ彼女を安心させたくて、役人に反省させたくて、の一心だった。
そこまで自分が必死になってるのは…隣の彼女から漂う懐かしい香りのせいだろうか。
その事に気を取られていて、役人が拳を挙げているのに気付くのが一瞬遅れた。
彼女が駆け寄って来て、奴らを批判する。
その姿は自分が今まで出会った女性とは少し違って頼もしく、そこに妙に惹かれた。
頼もしい一方で、自分の背中に添えられた彼女の手は微かに震えていた。

守りたい、そう思った。

そんな時、もう一人の役人が現れた。
あぁ…彼は知っているみたいだ。僕の身の上を。
案の定、知るや否や二人は僕に低頭姿勢を崩さずに去って行った。
隣を見ると、訝しげな目を自分に向ける彼女。
やっぱり疑問に思うよな…でも、出来るなら自分の身の上を知らない彼女と話したかった。
ありのままの自分を……


「……僕の家、役人が多いんだ。その中には王に近しい位に就いている人もいて……」

話にくそうに話すガク。
キョウは普通なら自慢気に話すような事柄を鼻にかける素振りなく話すガクに好感を持った。
容姿にも境遇にも恵まれて…鼻持ちならない感じもしないし……こんな人も世の中にはいるのね。
今まで出会って来た人と違いすぎた…身の上も、振る舞いも。

ガクはキョウの反応を窺う。
そんなに驚いた様子もない……どちらかと言えば戸惑っているような…
何も言わないキョウに口を開こうとすると、キョウが不意に口を開いた。

「そうなの…立派なお家にいらっしゃるだけ、色々と大変な事も多いでしょうね。貴方も恵まれている分…望まれていることもあるでしょう?」

意外だった。
僕の家柄を褒める訳でもなく、羨む訳でもなく。
僕が普段感じている何とも言えない周りからの期待と重圧感を指摘した。
彼女の前では自然体でいられる、そう思えた。
一族の中の自分でなく、イ・ガクとしての自分を見て、話す彼女。
今まで、自分の生まれに関心を向け、取り入ろうとする役人や周りの娘、その親たちにばかり接してきたガクにはキョウの自分を見る目がとてつもなく清らかに思えて、不思議な気持ちになった。
今会ったばかりなのに自分のことをよく分かってくれているような気がした。

地面に座った状態のままだったガクはとりあえず手をついて立ち上がろうとしたが、地面に散ったガラス片に顔を歪めた。
ガクの表情に気付いたキョウはガクの手に目を遣ると、手の平から出血していた。

「あっ…怪我を…」

キョウは急いで持っていた手巾を傷口に当てた。
傷口をギュッと押さえてから、そのまま手巾を結び始める。

ガクは、手当てしてくれているキョウの横顔を見ながら、不意に十年程前のあの日を思い出した。
あの時もあの子は今のようにしてくれたな…
そして、ふとキョウの頭に付けられた髪飾りに目が行った。
……似てる。
あの時の少女がしていた綺麗な花の髪飾りにとてもよく似ていた。
よく見れば何処となく顔立ちも似ている気がする。
ガクは無意識に呟いた。

「この髪飾り……」

キョウはガクの目線に気付いて、手巾を結ぶ手を止め、言った。

「これですか?綺麗でしょ?桔梗の花を象ったものなんです。幼い頃に母から貰ったんです。……これが…どうかしましたか?」

「いや…その……以前、似たものを見たことがあるので…」

「そうなんですか?これは母が私のために知り合いに頼んで作らせたものなので、この世でただ一つだけのものなんですよ」

「あ、そうですか…気のせいかな……」

ガクは心の奥深くに眠る幼い頃の記憶を手繰り寄せ、思い出そうとする。
キョウはガクの様子に首を傾げながらも止めていた手を再び動かし、手巾をしっかりと結んだ。

「よし、出来ましたよ」

キョウはにっこりと微笑んだ。
その笑顔は、自然とあの少女のあの花の様な笑顔と重なった。
ガクはあの時と同じように手が熱くなってキョウの笑顔を直視出来ず、地面に目を向けながら礼を言った。

「あ…ありがとう」

二人は立ち上がると、自分の衣服に付いた土を払った。

「…もう……家に帰らないと。こちらこそ、今日はありがとうございました。助けて頂いて…」

「そんな……い、いいえ、礼には及びません」

照れた様に鼻を掻くガク。
キョウはそんなガクに微笑むと一礼して、

「では…」

と言って、背を向け歩き始めた。

ガクはキョウの後ろ姿を見ていた。
凛とした後ろ姿が暗闇に溶け込んでいく程に、妙な焦りを覚えた。
あの日の様にただ後ろ姿を見届けるぼは嫌だった。
このまま自分が彼女に背を向けたら大事なものを逃してしまう気がしてならなかった。

気付けば、ガクはキョウの後ろ姿を追いかけていた。

「あのっ!!」

突然後ろから肩に手を置かれたキョウは驚いた表情で振り向く。

「っ……あ、あの……どうかされたのですか?」

ただでさえ丸い目が驚きでさらに大きく真ん丸になった表情が愛らしかった。
ガクは息を整え、言った。

「…あの……お名前………お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

「…はい?私の…ですか?」

………貴女以外に誰がいるんだ…
ガクは頷く。

「私の名前など…名乗るほどのものでもありません。貴方に名前を知って頂く理由もありませんし…ですから、お気になさ……」

「僕が……僕が知りたいんです。……それが理由じゃ駄目ですか?…」

「………………」

答えないキョウ。
これ以上無理に聞くのは失礼だ。
確かに初対面の男にしつこく名前を聞かれても困るだろう。

「………すみません。無理にとは言いません。失礼し……」

「……パク………朴梗(パク・キョウ)…です。……私の名前……」

微かに呟くその声はガクの耳に響いた。


「パク……キョウさん…。……パク・キョウさん、怪我の手当てをありがとうございました。…僕の名前は李恪(イ・ガク)と言います」

「…こちらこそ、今日は本当にありがとうございました…イ・ガク様」

彼女の声で自分の名前が呼ばれた時、胸が震えた気がした。
ガクが何も言えないでいる内に、キョウは再び頭を下げ、背を向け歩き出した。

ガクは今度はその後ろ姿をボーッと見ていた。
彼女の表情に、仕草に、頭が痺れたように何も出来ずに。

我に返ったのは、キョウの姿が暗闇に消えてからしばらく経った後。
そしてガクは気付いた。

「あ……名前聞いただけだ……」

十数年前のあの時よりも進歩した別れだったが、次に逢えるかどうかの保証はない。

しかし、ガクの心には、'また逢いたい'という願望と'また逢える'という予感で溢れていた。











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# by oneho-inway0621 | 2014-02-23 02:04 | 桔梗の輪廻~序章~

其五

ファヨンとの話に夢中になっていたキョウは外がすっかり暗くなっているのに気付いた。

「あ…明るいうちに帰るつもりだったのに……帰りは大丈夫?」

どこからどう見ても箱入りのお嬢様のファヨンを心配するキョウ。

「ええ、大丈夫。外に下人を待たせてあるから…あなたは?」

「私は大丈夫よ。この時間で帰るのに慣れてるから…じゃあ、気をつけて」

「じゃあ、また」

下人に付き添われ帰って行くファヨンの後ろ姿を見ながら、水溜りに映る自分の姿を見た。
それなりの身なりをした自分の姿。
でも中身は……先程ファヨンは自分のことを素敵な女性だと言ってくれたが…実際は、結婚よりも本、男性を一歩後ろを常に歩くべしとされる中自分を曲げることの出来ない自分。
それと比べて身も心も可憐なファヨン。
やはり真のお嬢様とはああいう人の事を言うのだろう。
キョウの家は、世間的には良家と言われる部類だ。
しかし、何代か前の当主が賭け事に嵌り資産を浪費。
それからというもの、体面は保たれてはいるものの実状は他から思われている程ではなくなっていた。
両親がキョウの結婚相手にそれなりの人物を求めるのは少しでも以前の状態に戻りたいという思いもあるからだろう。
心から想う人と結ばれるのは、彼女のような人なのだろう。
私はそんな人が現れるのを待ってる暇なんてないのかな…待ってるべきじゃないのかな。
キョウの中で結婚への妥協が固まりかけていた。
家に帰ったら、お母様とお父様に話そう…誰とでもとはいかないけど覚悟は出来た、と。
キョウは前を見据えて、家へと歩き出した。
あくまでも自分の未来は自分の意思と覚悟で進みたかった。


ちょうどその頃。
いつものように入り浸っていた貰冊房から家に帰る途中のガクは、ふと先日嗅いだ香りが鼻を掠めた気がして足を止める。
そして、無意識のうちに帰宅するには少し遠回りになる露店通りへと足を進めた。


パクハはいつも通り露店通りを歩いて帰宅していた。
昼間とは少し違った賑やかさを持つ夜の露店通り。
仕事終わりの役人達が仕事の愚痴を肴にして、酒に溺れている。
関わらないように、目を合わせないように、足早に歩くキョウ。
だが、ある酒屋の前を通りかかった時、いきなり誰かがキョウの手を掴んだ。

「きゃっっ!?…」

驚いたキョウが振り返ると、一人の酔っ払った男が焦点のあまり合っていない目でキョウを見上げている。
男の格好からすると、上級役人だ。

「…な、何か御用ですか?」

出来る限り落ち着いた態度で尋ねるキョウ。

「娘さぁ~ん。こんな時間に一人なんて危ないよぉ?…俺のお相手しろよぉぉ~…」

完全に酔っ払っている。

「時間がないので…」

上級役人相手に派手なことは出来ないとキョウにはやんわり断るしか出来ない。
そんな調子なので、なかなか諦めようとしない役人。
仕方なく、役人の手を払って行こうとするキョウ。
すると役人はおぼつかない足で立ち上がりキョウの肩を掴み、それに対して思わず押し返してしまうキョウ。
その反動で男は机にぶつかり、机の上の酒瓶を落としてしまう。
地面に散るガラス片。
役人は慌ててガラス片を拾おうとするキョウの手首を掴み、弁償しろだの、お詫びに酒の相手をしろだの、騒ぎ始めた。
……怖い…………
図らずも目が潤んできてしまうキョウ。
キョウは手を解こうとするが、酔っていても男である役人の力には敵わない。

そんな二人の周りに見学人が集まりだした頃。
掴んで離さない役人の手を抑える手が横からサッと伸びてきた。

「困っているじゃないですか。やめてあげて下さい」














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# by oneho-inway0621 | 2014-02-14 01:50 | 桔梗の輪廻~序章~

其四

その日、ファヨンは馴染みの装飾品店に向かった。
店に着くとそこには先客がいた。
店主と話すその客の姿を見つけると、ファヨンは笑顔で声を掛けた。

「こんにちは。…梗(キョウ)さん」

キョウはファヨンの方を向くと、微笑み返した。

二人の出逢いは最近の事だった。
都の中でも高級品を取り扱うこの店の常連であるファヨン。
ある日、母への贈り物を少し奮発して買おうとこの店を訪れたキョウが落とした手巾を拾ってあげたのがきっかけとなって、この店の手伝いに来始めたキョウと会う度に話す仲になったのだ。

今日も二人は日常の他愛のない話をしている。
そんな中、不意に恋の話になった。

「私はね、小さい時からずっと想ってる人がいるの。お兄さんみたいに温かくて…時に男らしくて…彼のお嫁さんになることが夢だった…。今は"兄様"と呼ぶ彼を、いつか"あなた"と呼びたいの。…それ以外何も望まない程に……大好きなの。…キョウさんは?誰か想いを寄せている人はいないの?」

「私はいないわ…今まで一度も。あなたみたいに誰かを想った事がないの。想い人をことを話すあなたはとても女らしくて素敵で…正直、羨ましいわ…すごく。……いつか私もあなたみたいに誰かを想うことが出来るかしら…」

頑固で男性に頼ることをしようとしない私が。

「出来るわ!私が初めて会った時に拾った手巾。あれはあなたが縫ったものなんでしょ?とても上手だったわ…あなたは外見も美しくて、心も純粋で聡明、その上お裁縫も得意なんて文句なしのお嫁さんじゃない。私もあなたみたいになりたいもの。…私、あなたの事応援する。この間、彼にあなたの事を話したら、大切にするんだぞって。彼も言ってくれた事だから尚更、私はあなたを応援するわ!」

「ありがとう。あなたの言葉で私にもきちんと想える人が現れる気がしてきたわ…あなたの原動力のその彼にも感謝しなきゃね」

気さくに笑うキョウの笑顔は同じ女人でもハッとさせられる美しさがあった。
その笑顔にファヨンは首を傾げる。

「本当に不思議だわ…とっくに結婚しててもおかしくないのに…そんなに大きな欠点があるわけでもないし……」

そう呟くファヨンに苦笑いするキョウ。

「…まぁ、色々とあるものなのよ…」

少し戸惑うその表情も可愛らしい。

「あなたに惹かれない人なんているのかしら…世の中の男性はほっとかないでしょうに。……あ、でも、私の想い人だけはダメよ?渡さないからね、絶対に!」

冗談めかして言うファヨン。

「変な心配しなくても、あなたは私よりも魅力的で心美しい女性よ。彼だってその事を知ってるはずじゃない?」

二人は微笑み合いながら話した。

この先のことを知るはずもなかった。
今思えば、あれ程切ない冗談があっただろうか。




....................................................................................…………………………………………

皆さん、御無沙汰の更新です!!!
遅れてすみません…
寒さ厳しいこの頃ですが、お身体に気をつけてくださいね(。-_-。)
次の話は…なるべく早めにアップしたいと思います!!
これからもよろしくお願いします( ̄^ ̄)ゞ
Onehoでした!!






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# by oneho-inway0621 | 2014-02-09 00:10 | 桔梗の輪廻~序章~